家族の一人が帰化申請をするからといって、家族全員も一緒に帰化申請をしなければならないことはありません。帰化申請をするかどうかは個人の意思です。

家族の一人が帰化申請をする際に、ほかのご家族の方も一緒に申請をしたいとおっしゃられる場合もありますし、明確に「私は帰化をしない」とおっしゃられるご家族の方もいます。ご家族まとめて帰化されるほうが書類収集の手間や労力という点ではいいのですが、損得で割り切れる問題ではありませんので、それぞれのご家族でご相談して決めていただくようお願いしています。

 

ただ、法務局はどうも、一人だけ帰化申請をしないのはおかしいという考えがあるようで、帰化申請をする家族の人数にもよりますが、本当は帰化申請をしたいけど出来ない理由があるのではないか?帰化申請しない方は暴力団ではないのか?など、帰化申請をされない方も面接に呼ばれて、いろいろと聞かれることがあるようです。

 

かつては、特に男性の場合は国籍にこだわる傾向があり、父親が日本国籍への帰化に反対していてできなかった、最近になって父が亡くなったので帰化をしたいというご年配の方の依頼をよく受けます。

 

先日は、76歳の方(昭和13年生)の帰化申請をしました。依頼者の方のお母様は朝鮮籍の男性と結婚したことで、朝鮮籍になり、夫婦の間に生まれた依頼者の方も朝鮮籍でずっと過ごされてきたということでした。

今では考えられないことですが、日本人の女性が、朝鮮籍の男性と結婚しただけで朝鮮籍になった時代がありました。そして、日本が戦争に負けると朝鮮籍の母親は日本籍には戻れず、朝鮮籍のままになってしまったということです。この時代は朝鮮籍であるがゆえにいろいろとつらいこともあったようで、依頼者のお母様は何度かご自分で帰化申請を試みたものの、挫折をされたようで、亡くなられてから帰化申請に関する書類が出てきたそうです。

「日本国籍に戻りたい」というお母様の気持ちは、依頼者である子どもさんに受け継がれ、私がその意思をお手伝いし、先日無事に帰化申請することが出来ました。依頼者の方は、目にうっすら涙を浮かべて、「まさかこの年で帰化申請することが出来るとは思わなかった。」と大変喜んでくださいました。

依頼者の方から「亡くなった母も何とか日本人になれないだろうか」と聞かれたのですが、「残念ながら、亡くなった方には帰化の意思がないので、それは無理です。」とお答えするしかありませんでした。

このように、帰化申請の意思には国籍にまつわるいろいろな想いがあるのですね。